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世界の医療文化比較 -その8-
〜マレーシア編〜


   アジアの発展は目覚ましく、その息吹を肌で感じるものがある。マレーシアの都市部の発展も目覚ましい。日本企業の進出も多く、外務省の統計によると駐在員は約8,000人ほどであり、その多くはクアラルンプルに駐在する。 首都での生活は、公共交通機関も走り、タクシーも十分にあり、日常生活には困らない。アジア経済危機を1998年ごろに脱して、今も順調に発展している。クアラルンプルにある商社の現地支店に出張したYさんは、昨年4月にマレーシアの担当を引き継いでから前任者のアドバイスで 出張した際現地ではJapan Medicare Clinic のべー・チョー・キム先生に滞在中の健康管理をお願いすることにした。 先生は、東京医科歯科大学を卒業されており、日本語も流ちょうで、クリニックは受付から始まって運営の仕方も治療のやり方も我々が日本で日常受けているものと変わりがなく、全く違和感のない医療サービスを提供してくれる。 また、虫垂炎程度の手術であれば先生のクリニックで検査から手術、入院までできるきれいで清潔なクリニックである。しかし、これはこのクリニックが特別であり、地方へ行くとこのような訳にはいかない。

  業務の一つには生ゴムの日本への輸出も手掛けているため、マレー半島の背骨ともいえる中央部のテメローへ出張したYさんは、初めて見るゴム園が想像していたものと違ってすべての規模が小さいことに驚いた。 クアラルンプルから高速道路経由、車で半日余り走ってようやく到着した農園で見たゴムの木は、成木で幹の太さが10cm程度であり、その幹のまわりに傷をつけて流れ出る樹液を採取する缶は、日本の果物の缶詰程度の小さなものであった。もっと大規模で大量に採取できるものと思っていたが、意外なほどこじんまりとしたものであった。一滴一滴落ちる雫を缶にためて、これを集めて加工したものが車のタイヤなどの原料になるのである。気の遠くなるような労働集約型の作業である。さすがに日本に居てはわからないことが、こうして現地を訪れると理解できる。そんなことを思いながら山を開墾したゴム園を回っていたYさんは、途中で2mほどの段差の石垣の上を歩いていたときに踏んだ石がグラっとした。 その途端、その石とともに下側に転落してしまった。Yさんは左足首がガキッと鳴り、強烈な痛みを感じて動けなくなった。同行した農園主は急きょトラックでYさんを テメローの1軒だけのクリニックに運んだ。 ここの医師は内科医というが何でも診る。(見ざるを得ない。) しかし、当日は外出中で帰りは翌日という。Yさんは、携帯電話でベー先生に電話して助けを求めた。ベー先生は、「(最悪のことを考え、)そこでは治療できない。クアラルンプルまで至急誰かに運んでもらうように」とアドバイスをした。Yさんは、農園主にYさんの車でクアラルンプルに運んでもらった。車が振動するたびに突き抜けるような痛みが走った。 きっと骨折していると思ったが、レントゲン検査の結果骨折はなく捻挫と靭帯の一部断裂であった。 最終的に左膝下をエアーキャストという取り外し可能なスキー靴のような装具で固定して治療は終わった。 Yさんは、今回たまたま命に関わることのないけがであったが、近くに医療機関のないところで重篤な状態になったらどうなるのかベー先生に尋ねた。すると、費用負担が構わなければシンガポールからヘリコプターを呼びシンガポールへ運んで治療を受けることが最も早く確実であるという。 

  日本のように救急車を呼べばどこにいても当たり前のように救急病院に運んでくれる体制は特別なことで、その有難さを強く感じたYさんであった。 「ひとは幸せの中にいると気がつかない。」というのは本当である。

   マレーシアの都市部では、外国人用のクリニックや国際資本の病院があり、いざというときにもそれほど心配はないが、やはり地方へ行くとそうはいかない。緊急時の輸血一つをとっても、日本では日赤による全国的血液供給網があり、その方法も加工された成分輸血が主であるが、現地ではこれが完備していない。緊急時に必要な場合には、人の血液をそのまま輸血することも行われるという。この環境でもっとも安全・確実な方法は、費用のかかる点を除けば、近隣の医療先進国であるシンガポールに運んで治療を受けさせることである。 今回Yさんは治療・救援者費用無制限の海外旅行保険に加入していたが、これは同僚のTさんの経験があったからであった。Tさんは昨年上海から車で2時間のところで交通事故に遭い、頭蓋内出血を起こして緊急手術を必要としたが、保険会社のアシスタンス担当医は日本に運んで手術をするよう指示して、結果的に日本で後遺障害もなく回復したことがあった。医師は、保険金額が十分あり日本に運べる状態であれば日本で手術を受けることを第一に考えると言った。 難しい手術を受けるのであれば、できるだけ安全度の高い国で受けるべきであることは当然であろう。

  リスクマネージメントや危機管理は、個人のレベルで考えれば命を守り、生き続けることが目的と言える。これが企業のレベルでは、会社を倒産させないで永続させることが目的となる。これらを側面から支えるのが専門家の知識と対応能力であるが、それには費用がかかる。海外で駐在時や出張時に海外旅行保険の加入は必須であるが、有効に命を守るための加入には、治療費用と救援者費用をカバーする保険が最重要項目であろう。一般には、生命保険等に加入しているから死亡保険金はあまり大きなものに入る必要はないかもしれないが、いざというとき『お金が足りなくて助からない』ことだけは無いようにするべきである。クレジットカード付帯の保険は死亡保険金が大きいものの、治療費用や救援者費用はことの他小さいので緊急時の対応では役に立たないことが多い。 また無保険やカード付帯保険だけで渡航されてトラブルにあい、ご相談を受けることも多くあるが、保険会社は保険に入っていない人は助けられない。結果的に海外の業者に足元を見られ法外な自己負担金額を支払わされた例が数多くある。本当に必要なものを忘れないようにしたいものである。

 

2007/12/25

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