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世界の医療文化比較 その5 
〜インド編〜


  "0"の概念をはじめて発見したのは古代インドである。 現代の高等教育では英語を使用言語としており、長年の教育政策が近年のIT立国を支えているといわれるインド。日本でも有名なインドの算数教育がソフトウェア開発の繁栄をもたらしつつあるともいわれるが、数多くの要素が相俟って今の結果につながっているのであろう。 経済発展は街の市場に行けば肌で感じられる。以前には無かった輸入商品の種類も増え、それを買う人も沢山いる。例えば、以前は買う人も限られた富裕層だけだった輸入果物も、今は沢山の種類があり普通の人達が買っている。

  国土はロシアを除くヨーロッパ全域の面積に相当するほど広く、人口は10億を超えている。この国の発展はこれまでの教育の蓄積が牽引していると考えると力強く確実なものであろう。世界経済の中での生産と消費に大きな影響力を持つ国になると考えられている。 中国との違いは、一人っ子政策を採っておらず、将来も大きな可能性があることであろう。

  大学院生のAさんは、研究仲間のBさんと2ヶ月の現地調査の予定でインドに滞在した。4月初めに到着したが季節は暑期で、一年中で最も暑いときでありニューデリーの日中の気温は40℃を超えるほどで、エアコンも効果を発揮できないほどであった。予定したフィールドワークが思うようにできず、渡航する季節を誤ったかとも考えたが、冬は5℃程度まで気温が下がると聞いて、その自然環境の厳しさに驚いた。

 10日ほどしてようやく生活のリズムがわかり掛けた頃、激しい下痢が止まらなくなった。困ったAさんは日本から持参した整腸剤を飲んでも全く効果がない。そこで海外旅行保険のガイドブックにあったアシュロック病院に行って診察を受けた。 その結果、重度の脱水症状があり入院指示を受けた。このとき入院の保証金支払を求められたが、保険会社のセンターに連絡して対応をしてもらった結果、支払わずに済んだ。 3日間入院を続けて点滴の治療を受け小康を得たが、とても調査を続けられる状態ではない。保険では救援者費用の適用もされると説明があったため、Bさんに付き添ってもらい治療のため日本に帰国することにした。

  途中、トランジットのためシンガポールで飛行機を降り、日本に向かう飛行機に乗り換えようとした際に検疫官にストップをかけられ、発熱と申告内容から感染症を疑われ、指定の病院受診の指示を受けた。このマウントエリザベス病院でも入院を指示されたため、やむを得ず再びBさんに付き添ってもらい入院することとなった。日本行きの航空券搭乗予約のキャンセルと退院後の再予約は保険会社のシンガポールデスクに依頼した。

  Aさんは、『日本で治療するから、武士の情けで搭乗させてくれればよいのに。』と思ったが、どこのお役人もそんなことは聞いてくれない。シンガポールで再び3日間入院した。幸い費用の問題は全て海外旅行保険会社が対応してくれた。 ようやく退院の許可が出たので搭乗許可証明書をもらい、4日目に保険会社から予約を入れてもらった日本の航空会社の便で成田に帰国した。帰国後は、自宅近くの開業医に通院して5日ほどで治癒した。 病名は、旅行者下痢症であった。

  トラベルメディスンの専門家によると、インドは感染症の宝庫といわれる。一般的には周辺国より医療水準が高いといわれているが、これは都市部の近代的な私立病院の場合であって、国公立病院の場合は、人口過剰と財政的な問題から充分な医療が受けられない現状があるという。平均寿命は男性も女性も62才から63才で、新生児死亡率も出生千人あたり70人余り(日本は3人)であるとのこと。 この国は経済成長段階に比較して、医療面、特に一般の人が必要なときに自由に必要な医療を受けられるかというと、不十分といわざるを得ない。

  Aさんの罹った旅行者下痢症は、外国人の30%から40%が滞在2週間以内にかかるといわれるが、 原因は全て食べ物・飲み物である。 予防には火を通したものを食べ、生水を飲まず、メーカー品のペットボトルに入ったものを飲む等の注意が必要である。 インドで流行している口から入る病気には、A型肝炎、E型肝炎、腸チフス、パラチフス、アメーバ赤痢、細菌性赤痢、コレラ、大腸菌性下痢症などがあり、これらを予防することが大切である。

  日本人にとって、インドの都市部には快適に受診できる近代的な私立病院やクリニックがあり、欧米で研修した優秀な医師が勤務しており問題はないといわれるが、医師以外の医療スタッフのレベルは必ずしも高いとはいえない。 また、日本人の感覚では公立病院への信頼感は高いが、インドの国公立病院は、患者数も多く、設備も器材も私立病院のように十分ではなくお勧めできない。重い病気のときは、シンガポールやバンコクまたは日本の病院で治療を受けることがよい。

  また、医師が白衣を着ていないことも日本人の患者からは驚かれ、ときどき『医師ではない人間(ニセ医者)に治療された。』との苦情を保険会社に入れる人がいるほどである。

  なお、専門医の治療費で、クレジットカードでの支払いが可能な場合でも現金で支払った方が安くなる。 

  下痢症でも一旦重篤になれば命を落としかねない。いずれにしてもいざというときには先にお金を払わないと治療をしてもらえない。ご自身と、人に迷惑をかけないためには治療費と救援者費用を負担する保険は準備して渡航されることが肝要である。 

2007/9/25

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