2009年度は、新型インフルエンザが流行し WHOが4月27日にPhase3(ヒト感染が散発)からPhase4(ヒトからヒトへの感染伝播が確認)と発表して始まり、4月30日にはPhase4からphase5(ヒトからヒトへの感染が拡大)へ、そして4月30日には Phase6(パンデミック期)へと矢継ぎ早に発表された。マスコミが過熱ともいえる大騒ぎをして、国も水際作戦を行い、現場の医師が疲弊してしまうほどであった。ところで中国においてはどのような対応がなされているのであろうか。どちらかというと、自国民と外国人との対応が異なっているようである。中国では人口当たりの西洋医学を修めた医師の絶対数が不足していること、軽い症状で医師にかかる慣習がない国民が多いこと、等の中で正確な患者数の把握は難しいのではなかろうか。人口が日本の10倍以上の国で発表された新型インフルエンザの感染者が半分以下という数字は、専門家ではなくとも疑問に感じるであろう。この背景には、前回述べた健康保険制度の問題、経済的な問題、施設と体制の問題等が考えられる。中国では、外国人の新型インフルエンザ感染に関しては大変敏感に反応する。また、隔離等厳格な対応をしているが、自国民に対して同様に対処しているかは甚だ疑問である。新型インフルエンザはパンデミック期であり、人口に比例した患者数があるとみても大きな間違いはないのではなかろうか。したがって中国の患者数の発表内容と、外国人患者および濃厚接触者(同じ飛行機に乗っていた人等)に対する隔離等の強制措置には、他国の対応と比較して違和感を覚える。

WHO発表(2009年8月6日)の世界の新型インフルエンザ患者数は177,457人で、内1462人が死亡したとある。単純に死亡率は0.82%である。これは医療先進国と開発途上国の合計数字であり先進国におけるそれはこれより低い。

インフルエンザは夏に流行が沈静化するといわれていたが暑い季節に、中国で日本人が隔離される事態が発生した。一週間の予定で中国修学旅行に行っていた一行のうち1人が発熱して北京で隔離された。検査の結果H1N1型陽性と診断され地壇医院に入院し、先生1名対応のため残った。この生徒さんの対応について旅行会社が緊急救援活動を開始した。日程の都合もあり、本隊は二人を残して西安に向かったが、同日西安到着後3人が発熱して同様に隔離された。その後検査の結果3人とも陽性と判断され、西安市第八医院に移送された。こちらの3人の生徒にも同じく旅行会社のチームが緊急救援活動を開始した模様。

引率責任者の先生は、学校と連絡を取り旅行会社の対応支援を受け、同時に保護者と学校による救援活動を開始された。海外旅行保険は3日以上の入院が見込まれると積極的に保護者の救援渡航を認めてくれるので学校としても対策を講じやすい。マスコミの追求がなかったため、学校は教育委員会と協力してその力を全て緊急救援対策に注ぐことが出来た模様である。

その後帰国の途中、上海で9名の生徒が発熱したとの報告があり、引率の先生方は大変心配をされていたが、検査の結果陰性でありただの感冒と診断された。先生方はほっとされたと思うが、その心労は大変なものであったであろう。誰もが5月の新型インフルエンザ発生の際のマスコミの『修学旅行を実施した学校』、或いは『大リーグ観戦時にマスクをしなかった理由』、等に対する狂気ともいえる追求が念頭をよぎるのである。ニュースが『事実の報道』からワイドショウ的になってどれほどの年数が過ぎたであろう。

世の中には、未知のウィルスや病原菌が未だたくさんあり、これからも人類が乗り越えなければならない困難が無限にある。その中にあって、あたかも『無事平穏が当たり前』的な発想から、マスコミは、何かが発生したときに興味本位の異常な報道をする、その背景に視聴率競争があるとしたら、それは本件のような場合に修学旅行の目的を阻害することになるであろう。

生徒が直面する困難を先生と学校が一緒になってこれを乗り越える、周囲もこれを支えることは、教育の大切な一面ではなかろうか。人は困難を乗り越えた量と質と数によって鍛えられる面がある。困難が発生したら責任追及というパターンは排除されるべきであろう。修学旅行を行う目的は、普段見ることのないこと、経験できないことを知るチャンスである。先生方や学校の判断を尊重し、そこでは発生した困難を乗り越えることを応援し、他国の法制度や体制の違いを乗り越えて冷静に対応することを応援することが大人の義務であり役割であろう。5月の高校生の新型インフルエンザの報道と今回を比較すると、常に興味本位ではなく出来事の軽重を正確に測り適正な扱いをする、今後のマスコミもそのような報道であることを期待したい。


以上  

2009/8/25

ページTOPへ

まえ

つづく


[目次]



Copyright(C)2007 Etsuji Sakai All Rights Reserved.