定年退職後、趣味の音楽鑑賞をテーマに海外旅行を続け、今回はクラシック音楽の本場といわれるプラハ観光に訪れたF氏夫妻は、街の規模の割合に大小の音楽ホールの数の多いことに驚いた。チェコフィルハーモニーの本拠地であり、毎年5月上旬に3週間に渡って音楽祭が開かれるだけのことはある。スメタナやドボルザークの名前を冠したホールや国立オペラ座等枚挙に暇が無い。また、ヨーロッパ中から観光客が来ていることにも驚いた。この街は歴史的にも文化的にも丁度日本の京都・奈良の感覚らしい。F氏は楽しい旅行になりそうだと浮き浮きしていた。しかし、夫人が小さく咳をすることが到着以来続いている。成田からパリに到着して、そのまま乗り換え前日プラハに着いたので疲れたのかもしれないと思った。

このため、夕方はホテル内のレストランで食事を済ませ早めに休むようにしたが、夜半にF夫人が度々目を覚まし、息苦しい様子を見せていた。F氏は夫人の背中をさすったり水を飲ませたりしたがあまり良くはならない。救急車を呼ぼうかと思ったが、夫人は「朝まで待てるから・・・。」と静止するので止むを得ずその言葉に従った。部屋の空気が乾燥していることも影響していると思われたので、バスタオルをぬらして掛け、湿度を上げるようにした。すると多少楽になったらしい。夫人が寝息を立て始めたので 翌朝まで休んでくれると良いが、と思った。しかし、午前2時ごろF氏は物音に気づいて起きた。 夫人がぜいぜいと苦しんでいる。これは大変と思い フロントに電話をして救急車を呼んでもらった。救急車で7〜8分後に到着したスタッフの中には1名の医師がおり、夫人をその場で診察し、何科の診療施設のある病院に運ぶべきかを先に判断して病院に運ぶようであった。日本のように受け容れる余裕がある救急病院であればどこでもよい、というものではないらしい。指定された病院に運ばれたF夫人は、呼吸器科の医師の診察と処置を受けた後病室に移ってそのまま入院し、ようやく落ち着いた。 救急車で最寄の救急センターに運ばれるのではなく、指定された専門医の下へ運ばれることが、日本人にとっては若干違和感があるが、これはこれで最初に到着した医師が判断してくれるので 良い制度なのかもしれない。

病院の施設や検査機器を見てもかなり新しいもので、日本の病院と比較しても全く遜色は無い。 また、医師の多くは米国で資格を取ったり研修したりしてきた医師が多いという。旧共産圏にありがちなサービス精神のない、お仕着せ医療という印象は全くない。米国のプライベートの病院にいるような感覚に陥りそうであった。患者や看護師等の言葉が違うだけである。日本と似ているのは治療費支払に関しては、医療機関が余りカード支払を採用していないのか、支払は基本的には現金で求められる。たまに、現金以外にVISAを指定していたり、Masterを指定していたり、また両方可であったりする場合がある程度である。 ようやく応急処置と経過観察が終わって、F夫人は朝退院となりホテルへ戻った。

F氏は、その夜も心配であったので夫人を連れて海外旅行保険のキャッシュレス提携医であるクリニックを訪れ、再度診察を受けた。米国の医大を出て博士号を取ってきた担当の医師が英語で、「プラハは大気汚染があるので、気管支の症状が出やすい。」と詳しく説明してくれた。 つまり重症ではないらしい。その後投薬の説明を受けて処方箋をもらい、薬局に寄って帰ろうとしたら、隣に「PIVO」と書いた処方箋を持っている人がいた。F氏が覚えたばかりのチェコ語では、それがビールのことではないかと思い、聞くと何とビールであった。流石ビール発症の国であり、病気治療の投薬にビールが出ることがあったことにびっくりした。(確かにビタミンBは豊富だといわれているが・・・。)

F氏が関心を持っていることとは別に、F夫人は同じクリニックの中に美容形成外科があるのを見つけた。そこでは看護師が大変丁寧に提供医療サービスの内容、これまでの実績、治療前と治療後の比較の写真等を用いて説明してくれた。F夫人は、赤いレーザー光線で顔面の皺に沿って軽いやけどをさせて、2週間程度で皺が消える治療ビデオを見て感動して興味を持った。また、F夫人は過去に西ヨーロッパの有名な女優さんやスターが来ていることを知り、音楽をテーマの旅行から、次には皺としみを取るために訪れたいと思うに至った。やはり世の女性の美に対する関心は大きく、チェコの医療は米国並であるといわれる中で、米国発の最新医療が比較的安価に受けられると知り、大変喜んでいた。

喘息を起こした結果で思わぬ最新情報を得ることが出来たF夫人は、正にけがの功名である。 ここでの喘息の治療費は日本円で1万円余りであったがこれも海外旅行保険会社が直接支払う旨説明があり、F氏の立替は、救急車の費用だけであった。因みに救急車を呼ぶ電話番号は“112”であった。救急体制が、専門科別の救急病院によって出来ていることが日本と異なることと、医療機関の広告が許されており、また一般の医療機関の中で 自由診療ではあるが美容形成外科の診療が同時に行われていることは異なっている点である。

医療制度として、通常の健康管理はG.P(General Practitioner)と呼ばれる予め契約した一般診療医が行うことは欧米の診療方法と同じである。専門医の診療が必要であればG.Pが契約している専門医を紹介し、入院することが必要な場合にはG.Pが病院の施設を借りて治療を行うか、その専門医が行うことも現在の欧米の方法と同一である。各種解説を読んでも医療レベルも設備も安心できるレベルであると記載されている。なお、医師は英語を話すが、看護師や受付では、英語が通じない場合がある点は、知っておきたい。

以上  

2009/4/27

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