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世界の医療文化比較
〜フランス編〜


 近年、日本では軽症の人でも気軽に119番を利用するため救急車の出動回数が増大し、「本当の緊急時に間に合わない」と弊害が指摘されている。それでは、他の先進国ではどうであろうか。 欧米ではこのような問題は発生していない。その理由の一つに救急車は有料であり、タクシーよりかなり高額であることが挙げられる。 二つ目には救急車要請時の電話を受けるシステムが違う点がある。具体的には後に付した表を参考にしていただきたいが、このシステムは、限られた医師と医療機材及び医薬品とで、最大の生命を助けることを目的に、戦時に考案された理論であるトリアージに基づいている。これは、医療の効果を最大限にするために、手当てをしても助からない人、緊急に対処すれば助かる人、少し時間を置いても助けられる人、生命に別状はない人に区分けして、生命を助けるために最も緊急を要するひとから対応を行う方法であるという。 通報を受けた担当者が、患者の状況を聴取してどの対応をすべきかを予め決めて救急隊に指示をする。このため、現実には必ずしも全て救急車が出動するわけではない。この点が日本と異なるところである。

 ご主人が定年退職をして、夫婦で海外旅行をすることが趣味になったAさんご夫妻も、70才が近くになって、日本の街ではあまり感じられないことであるが、ヨーロッパの都市の石畳を歩くとき、時として足が引っかかるように感じられた。特に疲れるとなり易い。ご夫妻は石畳の出っ張りが原因であろうと思っていた。 9月下旬のパリは、暑い日本と違って天気が悪く朝夕は寒いぐらいであったという。 添乗員つきのデラックスヨーロッパツアーでパリを訪れていたご夫妻は、観光時に歩行がゆっくりで迷惑をかけないようにと思っていたが、添乗員のUさんはご夫妻へも他の参加者にも迷惑がかからないようなスケジュールで観光を進め、参加者全員に大変好評であった。A夫人(六十八才)は11日間のツアーの7日目になって、多少疲れたかなと感じる程度であった。しかし、この少しが引金になった。

  モンマルトルの丘でサクレ・クール寺院を見て、似顔絵描きの作品を見ながら下って来たとき右足が引っかかるような気がして尻餅をついたA夫人であった。それ程の痛みは無かったというが、どうやっても立ち上がれない。添乗員Uさんは、ガイドに救急車(SAMU)を呼ばせた。しかし、電話口で詳しい症状を聞かれてもA夫人が「腰が抜けて動けない。」と言っている、その意味が通じない。そこで「患者が日本人の年配の女性で、本人もケガの状況がわからない。」とガイド氏が言うとそれで電話が終了した。添乗員UさんとA氏が夫人の側に残り、ガイドと他の参加者はバスで次の予定に向かって立ち去った。 暫くするとヘルメットを被ってオートバイに乗った男性が現れ、A夫人の診察を始めた。これが救急隊の医師であった。その彼が携帯電話で本部に報告すると、じきに救急車がきてA夫人を乗せて救急病院に向かった。もちろんA氏とUさんも同乗した。

  病院では、右大腿骨子関骨折と診断された。大腿骨の一番上の骨盤に入る部分(骨頭)の根元の骨折であった。これは若い人であっても2ヶ月以上の整復固定が必要な大ケガである。まして年配の人では治療期間が長期になる。主治医は、治療期間短縮と合併症の発生を防ぐため、骨折部分から上部を切除して人工骨頭に置き換える手術を行なうことを勧めた。Aご夫妻は、この手術を了承し、夫人がこれを受けた。その結果2週間で歩行練習ができるまで回復した。年配の人が長期間整復固定して寝ていると筋力が落ち、寝たきりになり易いのである。それを防ぐために、この手術は大変良かったのである。 海外旅行保険からは、治療費と入院中の諸費用、及びA氏と、日本から救援に来たご子息とお嬢さんの交通費・宿泊費が支払われ、2週間後に医師付き添いで全員一緒に帰国できた。
それで喜んでいたAご夫妻の元に、保険会社から後遺障害の保険金支払通知が届いた。¥17,500,000.−と記載してあった。死亡後遺障害5千万円の保険に入っていたので、その35%が支払われると聞いて再びびっくりしながらも喜ばれたご夫妻であった。

 西ヨーロッパの救急医療体制は、日本とは異なっているが、考え方と体制及びその運用は大変優れたものであるといえる。これらの国で緊急を要することがあったときには、下記の概要表を参考に安心してそのサービスを受けられたい。

世界の救急医療体制 そのI
国名
英国
フランス
イタリア
日本
管轄
厚生省等 (国公立医療機関)
総務省(消防庁)
特徴
救急隊員(医師・看護師含む)が医療行為可 
原則不可
CallNo.
999
NHS Direct
8454647
15
Service d’Aide Medicale Urgente (SAMU)
118
119
受付
Nurse Adviser
通信医療センター(医師+通信医療補助士)
国立病院職員
消防署員
受診方式
Triage Guideline Search
TelemedicineMedical regulation
Triage
到着順
派遣救急隊員
Rapid responder
BASICS Doctor
医師、看護士、運転手のチーム
看護士、運転手、助手のチーム
場合により医師単車先行派遣
消防署員
救急対応体制
Accident & Emergency (A&E)
1.Preredgistration Triage
(1)Life threatening
(2)Pain
(3)Hemorrhage
(4)Consciousness level
(5)Temperature
(6)Acuteness
@ Red(直ちに)
A Orange(10分以内)
B Yellow(60分以内)
C Green(120分以内)
D Blue (240分以内)
公立救急医療組織(SAMU)
1950 アルジェリア戦争以来
1.全国106の通信医
療センター+ 300救急医療派遣基地(公立医療機関敷地内)
2.院外集中治療室(OH-MICU)
ワゴン、ヘリ、船、
飛行機+ 派遣医療チーム
3.医師のみが現場へバイクで
1.受付時、重症と判断されると医師も同行。
2.救急車は、基地ではなく、需要の多い地域で待機。
3.救命対応・応急処置の対応のみ
救急病院に運んでから、医療行為が開始される。

 

2007/10/25

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